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神戸地方裁判所 昭和63年(ワ)1471号 判決

原告

谷口万里

谷口元子

右原告ら訴訟代理人弁護士

井上俊治

望月一虎

被告

谷口篤造

谷口阿伊奈

谷口久夫

右被告ら訴訟代理人弁護士

中島晧

二瓶修

湯浅正彦

山根一弘

主文

一  原告らの請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告らの負担とする。

事実及び理由

第一請求

被告らは、いずれも被相続人亡谷口三樹三郎の遺産につき相続権を有しないことを確認する。

第二事案の概要

一被相続人亡谷口三樹三郎(以下「亡三樹三郎」という。)は、昭和六〇年一〇月二五日神戸市東灘区で死亡したものであるところ、その法定相続人は、原告谷口万里(長女、大正一一年三月二九日生)(以下「原告万里」という。)、原告谷口元子(養女で原告万里の長女、昭和二四年一月一日生)(以下「原告元子」という。)、被告谷口篤造(長男、大正九年九月一〇日生)(以下「被告篤造」という。)、被告谷口阿伊奈(二女、昭和四年三月一四日生)(以下「被告阿伊奈」という。)、被告谷口久夫(養子で被告阿伊奈の夫)(以下「被告久夫」という。)の五名である(争いがない)。

二亡三樹三郎は生前、昭和五四年七月一日付作成の遺言書(以下「本件遺言書」という。)及び昭和六〇年三月一二日付作成の遺言書(補足)(以下「補足遺言書」という。)を書き残した(争いがない)。

その各遺言書の記載内容は、以下のとおりである〈書証番号略〉。

(一)本件遺言書

自分なきあとは、子供らは仲良く一致しお互に助け合い、少しでも仲違いするようなことがあってはならない、

そして長男篤造はよく皆の相談相手となってすべてのことを処理すること

残された財産の処理については篤造一、長女万里一、次女阿伊奈及びその夫久夫と合して一、養女元子0.5の割合を以て配分することとし、この内元子の取得分0.5は一応万里取得分に加算し、結局万里に1.5を取得することとする、

但しここに特に考慮が与えられなければならぬことは万里が殆ど全生涯を通して父母とともに生活し、殊に老年の父母を看護る大役を果たしてきたこと、しかして、父母亡きのちは孤独無援の境涯におかれる運命にあることである、

よって遺産配分の割合は一応前記の通り取りきめたが、遺産として残された土地の処分については、万里の住家として贈与予定の西家(家屋番号89)所在の宅地は前記配分割合に不拘、優先的に万里に与えることにすること、

上記具体的処理は遺言執行者として篤造がこれに当たること、

判らぬこと、困ったことがあった時には山田作之助先生に相談してその指示に従うこと

以上

(二)補足遺言書

今までの遺言書の補足として左記をつけ加える、

一、現在万里所有建物の敷地が今なお三樹三郎名儀となっているが、これは万里が相続するものとする、斯くして万里は家と土地の所有者となること。

二、その他のことは従来の遺言書の通り誠意を以て実施することを父は念願し期待する。

一、建物の表示左の如し

所在 東灘区御影山手二丁目八九番地

家屋番号 八九番

種類 居宅

構造 木造瓦葺二階建

床面積 一階84.27平方米

二階72.72平方米

以上移譲実施昭和五四年九月二〇日

課税価格二五六万円

登記免許税六万四千円

二、敷地 御影町西平野西松本七の二現在は表示変更により現在は御影山手二丁目八九番

その面積三百坪(991.73平方米)

以上面積数字は山根事務所による地積分割により決定せされたるもので………は登記せられている。

以上 従来のもの、補足として遺言する、

三亡三樹三郎家の顧問弁護士である山田作之助弁護士(以下「山田弁護士」という。)は、昭和六〇年一二月九日の昼ころ、神戸ポートピアホテルに、原告万里、被告篤造、被告阿伊奈、被告久夫を集め、原告万里が持参した本件遺言書及び補足遺言書を被告ら三名に示した。その際、被告篤造は、本件遺言書及び補足遺言書を開封し、その各記載内容を読み上げ、これらを所持して散会した(争いがない)。

四被告篤造は、前記昭和六〇年一二月九日以降現在に至るまで本件遺言書及び補足遺言書を所持し、かつ、原告らが本件訴訟を提起するまで家庭裁判所による遺言書の検認手続きをしなかった(争いがない)。

五被告らは、亡三樹三郎の遺産である神戸市東灘区御影山手二丁目八九番地一宅地596.83平方メートル外八筆の土地について、神戸地方法務局御影出張所昭和六二年七月三一日受付第二一九〇〇号をもって相続を原因とする所有権移転登記(法定相続人五名の各五分の一ずつの持分登記)を経由し〈書証番号略〉、被告らの岸田辰治税理士をして、亡三樹三郎の遺産について法定相続分割合に基づく相続税の申告書を作成・提出させた〈書証番号略〉。

六被告らは、昭和六二年一〇月六日、神戸家庭裁判所に、原告両名を相手方として、亡三樹三郎の遺産に関し、遺産分割の調停を申し立てた(同裁判所昭和六二年(家イ)第九七五号事件)。

七(争点)

被告らが、民法八九一条五号に該当する行為をしたか否か。

第三争点に対する判断

一証拠〈書証番号略〉、原告谷口万里、被告谷口篤造、被告谷口阿伊奈によれば、(1)原告万里は、亡三樹三郎が死亡した直後、「重要」と記載された赤色の紙片が貼り付けられた袋の中に本件遺言書及び補足遺言書があるのを発見し、その後、被告篤造に右袋を見せたところ、同被告は、それが重要書類の袋であることから、その中に亡三樹三郎の遺言書が保管されているものと考え、原告万里にその保管を指示し、同原告は、本件遺言書及び補足遺言書を、昭和六〇年一二月九日ポートピアホテルにおいて山田弁護士立会いのもとに開封されるまで保管していたこと、(2)被告篤造は、右昭和六〇年一二月九日、山田弁護士の立会いのもとに、原告万里が持参した本件遺言書及び補足遺言書を開封して、その記載内容を朗読し、原告万里、被告阿伊奈、被告久夫もこれを回し読みしたこと、(3)被告篤造が本件遺言書を開封した際、その封筒の中に、亡三樹三郎の筆跡により「正本は山田先生保管」と記載されたメモ書が入っていたこと、(4)本件遺言書及び補足遺言書は、昭和六〇年一二月九日以降被告篤造が所持・保管しているが、原告万里は、被告篤造がこれらを所持して帰京するについてなんら異議を述べなかったし、被告篤造は、原告万里に直ちにこれらのコピーを送付する旨を約束し、右約束のとおり本件遺言書及び補足遺言書のコピーを原告万里に送付したこと、(5)被告篤造は、昭和六一年三月ころ、遺言書の検認のことを知り、本件遺言書及び補足遺言書について家庭裁判所の検認を受けていないことについて心配し、山田弁護士に相談したところ、同弁護士から「家庭裁判所の検認を受けていなくとも心配いらない。」旨の回答を得たが、その際、当時原告万里の側の顧問弁護士であった山田弁護士からは、本件遺言書及び補足遺言書の原本の返還あるいはコピーを要求されていないこと、(6)さらに、原告万里は、神戸家庭裁判所における調停中、山田弁護士の事務所において本件遺言書及び補足遺言書のコピーを何度も見ていること、以上の事実が認められる。

二民法八九一条五号に定める相続欠格事由としての遺言書の「隠匿」とは、遺言書の発見を妨げるような状態に置くことであると解されるところ、右一に認定した各事実を総合すると、本件遺言書及び補足遺言書は、既に発見されているし、原告万里及び山田弁護士の立会いのもとに開封されて、その記載内容が明らかにされているうえ、その写しが、右開封後かなり早い時期から原告万里及びその実質的な代理人である山田弁護士の手元に存在していたものと認めるのが相当であるから、被告らが民法八九一条五号に定める遺言書の隠匿行為をなしたものとはとうてい認め難い。

三さらに、被告らの前記第二、四ないし六記載の所為が、いかなる意味においても民法八九一条五号に該当しないことは明白である。

四よって、原告らの請求は、失当として棄却されるべきである。

(裁判官三浦潤)

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